窒素固定増強遺伝子を用いた地球にやさしいダイズの開発

~共生窒素固定の強化によるマメ科作物の低炭素投入型への転換~

研究背景

 現在の世界中の慣行農業では合成窒素肥料を大量に使用しており,そのほとんどはハーバー・ボッシュ法で製造されています(工業的窒素固定→詳しくはこちら)。この方法では3分子のアンモニア生産につき0.88分子の二酸化炭素(CO2)が放出されます。一方国内に目を向けると,2050年までにCO2ゼロエミッション化の実現を目指すほか,化学農薬の使用量の50%低減,化学肥料の使用量を30%低減するなど食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を目指した「みどりの食糧システム戦略」が策定され,多くの問題の解決に取り組むことが,これからの農業には強く求められています。もし仮に,大量の合成窒素肥料の使用を減らしても現状以上の作物生産が維持できるのならば,CO2排出削減に繋がり,地球に優しい低炭素投入型農業の実現に貢献できると考えられます。

研究内容

 マメ科植物の多くは,根粒菌と共生して,根粒の中で窒素肥料を自力で作ることができます(根粒共生について→詳しくはこちら)。私たちの研究室ではダイズの窒素固定を強くする遺伝子を発見しました。そこでその遺伝子を従来品種のダイズに導入してみたところ,そのダイズは期待通りに窒素固定を今まで以上に活発に行うようになりました(図参照)。また次の図の右側の植物が窒素固定を強くした植物です。よく成長していることがわかると思います。この遺伝子導入は遺伝子組み換え技術を使っていないので,いわゆるGMO(Genetically Modified Organism;遺伝子組み換え作物)には該当しません。さらに面白いことに,多くのダイズ品種はこの遺伝子を持っていないことがわかってきました。この事実は,世界中のダイズ品種へ窒素固定増強遺伝子を導入できることを示しています。したがって,これが実現すれば,ダイズ栽培に必要な窒素肥料の削減やダイズ生産量の向上が可能になり,上記の問題解決に貢献できると期待されます。

窒素固定増強遺伝子を導入した品種

 

アセチレン還元活性

 

窒素固定を強くしたダイズ

 

今後の展開

 日本や世界の主要なダイズ品種へこの遺伝子を導入して,本当に窒素固定が強くなるのか?肥料を減らすことができるのか?ダイズの生産性が向上するのか?などを調査していくつもりです。


◆研究コラム

窒素固定増強遺伝子を導入したダイズの生産性の評価


SEN1遺伝子を持つダイズ新品種で環境問題に大きく貢献


▶ミヤコグサのSEN1遺伝子に関する論文
 →こちら