薬用植物カンゾウ

~根粒共生を用いた薬用植物カンゾウの効率的な栽培法の確立~

研究背景

 カンゾウ(甘草)はマメ科の薬用植物であり、主根や匍匐茎(ストロン)に機能性成分であるグリチルリチン酸(以下GLとします)を多く含んでいます。カンゾウの根は、生薬として全漢方製剤の約7割に配合されています。生薬として用いることができるカンゾウには、スペインカンゾウとウラルカンゾウの2種類があります。また、カンゾウは生薬以外の用途として、天然甘味料や化粧品、サプリメントなどにも使用されています。カンゾウに対する国内需要は増加傾向にある一方で、日本国内には自生していないため、国内供給のほぼ100%を中国からの輸入に頼っているのが現状です。その中国においても、自生種の乱獲や自生地区の砂漠化などにより輸出規制がされ、カンゾウの価格高騰に繋がっています。
 このような背景から原材料を安定的に確保するために、カンゾウの国内栽培が推奨されています。通常、国内でのカンゾウ栽培には3年以上の栽培期間を要し、栽培したカンゾウのGL含量が、日本薬局方の規定(乾燥重量あたり2.0%以上)に満たない場合が多くあります。このようなことから、栽培期間を短縮して尚且つGLの規定値を満たす栽培方法の確立が求められます。
 しかし、一般的に植物(*カンゾウ)が二次代謝産物(*GL)を生成するのはストレス環境下であり、このような環境下においてはバイオマス生産が低下するという生産者目線からのジレンマが存在します。
 本研究室では、カンゾウに根粒菌を共生させることで(根粒共生について→詳しくはこちら)、「バイオマス生産」と「GL生産」の両立という課題に取り組んでいます。

スペインカンゾウとウラルカンゾウ

 

研究内容

 国内で栽培されているカンゾウの根に根粒が形成されていることはほぼ皆無であるため、まず、本研究室ではカンゾウに根粒を形成する根粒菌を独自に単離しました。この菌株は、スペインカンゾウとウラルカンゾウの両方と共生関係を築くことができます。
 ウラルカンゾウにおいて根粒菌を接種した場合、新鮮重量やクロロフィル含量の指標であるSPAD値などのバイオマス生産が促進されました。また、根粒菌接種区ではGL合成経路で主要な働きをするCYP88D6遺伝子発現量と根のGL含量が増加しました。このように根粒菌接種は「バイオマス生産」と「GL生産」の両方を促進することが分かります。ここで、根粒菌接種が「バイオマス生産」だけでなく「GL生産」にも正の効果となった要因としては、カンゾウおいて根粒菌接種が生物的ストレスとして認識されたためであると考えられます。
 本研究室では、スペインカンゾウにおいても同様の実験を行っています。こちらも有意なデータが集まり次第、研究内容を公表していきたいと思います。

バイオマス生産

 

GL生合成経路

 

GL生産

 

カンゾウと根粒菌

 

今後の展開

 本研究室での栽培試験は根粒菌接種150日程度までしか確認できておりません。今後、根粒菌接種によるカンゾウ栽培の実用化に向けて、長期間での栽培においての根粒菌接種の効能についても探索していく必要があります。

 

◆研究コラム

本研究室の学生が優秀発表賞を受賞者しました!
日本作物学会第256回講演会(2023年9月14,15日、佐賀大学

▶薬用植物カンゾウに関する特許を取得しました(2023年9月25日)。
 → 特許証PDF

 

▶ウラルカンゾウに関する論文
 →こちら